1話 雪沢さん
今日はいつもより寒いんだな。
以上が、今日俺が学校で口にした言葉一覧だ。
寂しい奴だな、と思う人が多いだろうが、今日のところはひと味違うんだ。
なんたって、雪沢さんと言う話し相手がいるんだよ。
「そうだねぇ」
キーンと頭に響き渡る雪沢さんの声が、俺に対するものだと気付いたときに、驚いて姿を隠しちまった。
雪沢さんは、学校一の美人…ってわけじゃ無いが、俺の中のザ・モストフェイバリット女子として、絶賛マイブームフィーバー中の女の子さ。
綺麗な長髪と、おっとりした感じが俺の採点基準で高得点を得ているんだが…。
まさか、話かけられるとは…。
まさか、聞かれていたとは…。
まさか、聞こえていたとは…。
俺に気温はわからない。感じないからな。季節と、皆の服装でだいたい感じ取っている。
10月にもなって、皆はまだ上着を着ずに、さらには腕まくりをしていたり。
昨日までの景色はそうだったが、今日はみなブレザーを羽織っている。
あぁ、今日はいつもより寒いんだな。
口に出したつもりはなかった。
独り言ってのは、こんな自然に出るものなのか。
まぁ構わない。どうせ聞こえていないんだから。
聞こえないはずだったんだから。
翌日、少し気まずいながらも、俺は雪沢さんの後ろ、ロッカーに座る。
ここが俺の定位置だ。
雪沢さんの席は1番端っこ窓際の1番後ろ。クラス全体が見渡せんだ。
俺に用意されてる机と椅子は無い。
ここのクラスメイトじゃないからな。
10年前、俺は死んだ。
クラスのやつとふざけて遊んで、足を滑らせて、このロッカーの角で頭強打して、死んだ。
やりたいことも、いっぱいあった。
それなのに、そんなくだらない事故で死んだ。
成仏なんて、できるわけがなかった。
それから俺は、ずっとここにいる。
お気に入りの女子を探したり、先生生徒にニックネームをつけたりと、無意義な地縛霊ライフを満喫しているのだ。
「ふーん」
俺の切ない霊務経歴は、伸ばし棒込みのたった三文字で幕を下ろされた。
「暇だったでしょ」
そりゃあな。
「友達いないもんね」
ジェネレーションギャップがな、辛くてな。
「それ以前に私以外と話せないんでしょ?」
確かに。雪沢さんが10年ぶりの話し相手だし。
「ならこの雪沢明(あかり)が直々に友達になってあげようではないか!」
クラス全員の視線がこっちへ向く。
「雪沢さん、授業中ですよ」
「す、すみません…寝ぼけてて…」
てへへ、と。
雪沢さん、あんたかなり痛いキャラに思われんぞ…
こうして俺と雪沢さんの、スクールライフが始まった。
最後の怖い話
これは私が聞いた最後の怖い話です。
どうか最後まで、聞いてくださいね。
…ところでお前よ、怖い話好きか?
やめとけ、怖い話なんてろくなもんじゃない。
ん?いや、俺は作ってたんだよ。クリエイターってやつだ。
両親が早くに死んでな、この歳になっても仕事しないで、遺産で暮らしてたんだけどよ。
いわゆる勝ち組ニートってやつだ。
でもやっぱ何もしないのは暇だからよ、趣味で怖い話作ってたんだよ。
某掲示板に乗っけてたりしてな。
まとめサイトとかにも載ったことあるからな、お前も読んだことあるの、あると思うぜ。
ん?あのカラスが鳴く橋の話とかさ、"キンジテ"とか有名だと思うんだけ…
知らねぇのか。まぁいい。
でよ、また怖い話作るかーって、考えてる時に、
俺寝落ちしちゃったのよ。
その時に見た夢がさ、まんま、直前に考えてた怖い話でよ、
森の入口に可愛い女の子が立ってんのよ。
んで、その女の子が森に入って行くんだけどさ、
俺その話のオチ知ってるからさ、行きたくなかったのよ。
俺が作ったからな。
しかし夢の力ってのは偉大でなぁ、
直前に考えてたのに、自分が作ったってことは忘れてんのよ。
おまけに身体も勝手に動いて、女の子に着いてくわけ。
その話のオチなんだけどよ、
女の子に着いてった男を突然鎌持ったオッサンが襲ってくんのね。
その森には狂ったオッサンがいてよ、オッサンに殺された女の子の霊が、死体見つけて欲しくて人呼ぶんだけど、
呼ばれた人はみんなオッサンに殺される。
生きてる人間が1番怖いですねー
っつう、まぁ今考えるとしょうも無いオチなんだけどな。
だから俺は先手を打ったわけ。
前からオッサンが歩いて来てんの見えたから、
全力ダッシュでブチかましてやったのよ。
そんで馬乗りんなって、何発殴ったか覚えてねぇくらい殴ったところで、
目が覚めた。
目が覚めると、俺の下にはオッサンの死体があるわけよ。
周り見ると近所の山の獣道でよ、
そのオッサンもよく見ると、いつも夜中に近所徘徊してるオッサンなわけ。
やっちまったんだよ。
寝ぼけてな。
それまで夢遊病とかなんもなかったからよ、
おっと。
動くなよ。
その位置なんだよ。
さっき殺したオッサンが埋まってんの。
丁度よかった。
せっかく俺が作った最後の怖い話なのに、
実写版で女の子がオッサンに代わってたら萎えるもんな。
心配しなくても大丈夫ですよ。
あの人は今、寝ている時間ですから。
彼女がそう言い切る前に、
僕はその場から逃げ出した。